行為能力とは、単独で有効に法律行為をなし得る地位または資格のことをいう。行為能力が制限される者のことを制限行為能力者という。かつては行為無能力者あるいは制限能力者と言った。制限行為能力者は具体的には未成年者、成年被後見人、被保佐人、同意権付与の審判(民法17条第1項の審判)を受けた被補助人を指す(民法20条第1項)。なお、同意権付与の審判を受けず代理権付与の審判(民法876条の9)のみを受けている被補助人は制限行為能力者ではない(民法20条第1項定義参照)。
行為能力の制度は法律行為時の判断能力が不十分であると考えられる者を保護するために設けられたものである。そもそも意思能力のない者による法律行為は無効とされるのであるが、法律行為の当事者が事後において行為時に意思能力が欠如していたことを証明することは容易でない。また、行為時の意思無能力が証明された場合には法律行為が無効となるので、その法律行為が無効となることを予期しなかった相手方にとっては不利益が大きい。そこで、民法は意思能力の有無が法律行為ごとに個別に判断されることから生じる不都合を回避し、類型的にみて法律行為における判断能力が十分ではない者を保護するため、これらの者が単独で有効に法律行為をなし得る能力(行為能力)を制限して制限行為能力者とし、その原因や程度により未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人に類型化した上で、それぞれの判断能力に応じて画一的な基準により法律行為の効果を判断できるようにしたのである。そして、制限行為能力者にそれぞれ保護者を付して取消権などの権限を認め、制限行為能力者の利益となるよう適切に判断することが期待されている。保護者は具体的には、未成年者の場合には親権者又は未成年後見人、成年被後見人の場合には成年後見人、被保佐人の場合には保佐人、被補助人の場合には補助人である。
意思能力のない者による法律行為は無効とされるのに対し、未成年者、被保佐人、同意権付与の審判を受けた被補助人が、それぞれの保護者(法定代理人、保佐人、補助人)の同意を得ずにした一定の法律行為は取り消すことができるものとされ、また、成年被後見人の行為は、その保護者(成年後見人)の同意があった場合であっても取り消すことができるのが原則である。
ただし、婚姻、縁組、認知、遺言など、一定の身分法上の法律行為(身分行為)については、行為能力制度(制限行為能力者制度)の適用はないものと解されている。そもそも行為能力制度(制限行為能力者制度)は制限行為能力者の取引の安全を図ることを目的としており、また、身分法上の法律行為は本人の意思を尊重する要請が強く(代理になじみにくい)、類型的にみて身分法上の法律行為は財産法上の法律行為ほど要求される判断能力は高くないものと解されているからである。一般に身分行為に必要とされる判断能力は15歳程度の判断能力が基準とされている。なお、遺言能力については民法上に規定がある(961条・962条参照)。