日本法においては、民法により、先取特権、抵当権及び質権の効力は
・目的物の売却、賃貸、滅失若しくは損傷により設定者が受けるべき金銭その他の物、又は
・目的物に対する物権の設定による対価
の上にも及ぶものとされており、このように担保物権の効力がその目的物の価値変化物に及ぶことを「物上代位」という。
その趣旨は、担保目的物に関するさまざまなリスクから担保権者を保護し、担保物権による債権回収の確実性をなるべく高くすることにある。
物上代位ができるという担保物権の性質を物上代位性といい、担保物権の通有性の一つといわれる。実際には、先取特権(民法304条)・質権(民法350条、特許法第96条、実用新案法第25条第2項、意匠法第35条第2項、商標法第34条第2項)・抵当権(民法372条、建設機械抵当法第12条、航空機抵当法第8条、自動車抵当法第8条)及び譲渡担保(判例)には認められているが、留置権には認められていない。
物上代位を行うには、「払渡し又は引渡し」前に「差押え」を行う必要があるが、特別法に基づく一定の場合にはかかる「差押え」を要しない。
例えば、ローンを貸し付けるに当たって、貸付人が、借入人の所有する建物に当該貸付金を担保するために抵当権を設定したとする。これにより、借入人がローンを返せない場合には、当該建物が差し押さえられて換価され、その代金から貸付人は当該貸付金を回収できることとなる。もっとも、ここで、例えば抵当権設定後にその建物が放火により全焼してしまった場合には、貸付人は担保を失うこととなってしまいそうである。しかし、この場合には借入人は放火犯に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有するはずであり、貸付人(抵当権者)はその抵当権の行使としてこの損害賠償請求権を差し押さえ、そこから貸付金を回収することができるのである。
あるいは、動産である商品を販売し、引き渡したが売却代金をまだ回収していない場合、売主は当該商品について売却代金を担保するための先取特権(動産売買先取特権)を当然に有する。これにより、買主が売却代金を払えなくなった場合には、当該商品が差し押さえられて換価され、その代金から売主は当該売却代金を回収できることとなる。もっとも、ここで、例えば買主が当該商品を第三者に転売してしまった場合には、売主は担保を失うこととなってしまいそうである。しかし、この場合には売主は当該第三者に対して(まだ回収していなければ)売却代金債権を有するはずであり、売主(先取特権者)はその先取特権の行使としてこの売却代金債権を差し押さえ、そこから自己の売却代金を回収することができるのである。